研究概要 |
ファンコニ貧血(FA)は進行性の骨髄不全と、骨髄異形成症候群、急性白血病への高率な進行を特徴とする先天性骨髄不全である。遺伝的に異なる11群があり、このうち9群に対応する原因遺伝子が同定され、これらは共通の分子経路(EA経路)で作用する。すなわち、FANCA/B/C/ E/F/G/Lを含む核内複合体の形成に依存して惹起されるFANCLによるFANCD2モノユビキチン化がDNA修復に関与する。しかし、この分子経路の制御機構は明らかではない。我々はFANCAの核内レベルがこの分子経路の活性化を制御する重要であることを明らかにしてきた。本年度はFANCAの核内レベルを制御する要因について以下の新知見を得た。(1)FANCGがFANCAに結合してその核内への移行に対して抑制的に作用することを見出した。(2)細胞をFANCAはimportinを介する核内への輸入機構だけでなく、Crm1を介する核から細胞質への輸出機構によって制御されることを明らかにした。(3)分子シャペロンHsp90,Hsp70およびこれらと相互作用するユビキチンリガーゼCHIPは蛋白の高次構造を正常に保ち、一方で異常な蛋白を分解する「蛋白の品質管理」に重要な役割を果たす。FANCAはHsp90の結合により安定化を受け、Hsp90の特異的阻害剤17-AAGの作用によりHsp70-CHIPによるポリユビキチン化を介してプロテアソームによる速やかな分解を受けた。また、17-AAGはFANCD2のモノユビキチン化を強く阻害した。したがって、Hsp90/Hsp70/CHIPにより形成される「蛋白の晶質管理」機構がFA分子経路の制御に重要な役割を果たすことが示唆された。一方、FA患者骨髄検体を用いた解析により、比較的早期からp15/INK4Bなどの腫瘍抑制遺伝子のメチル化亢進が起こることを見出した。
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