研究概要 |
ファンコニ貧血(FA)は進行性の血球減少を特徴とする先天性骨髄不全であるが、実際には様々な臨床経過を示す。すなわち、軽度の血球減少を長期間示す症例もあれば、骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病への進行もしばしば見られる。最近、FA遺伝子の復帰変異を持つ末梢血リンパ球(PBL)が増殖する体細胞モザイクと骨髄不全の軽症化との関連性が注目されている。今回、我々はPBLに体細胞モザイクが見られないのに長期間にわたり血球減少が見られなかった症例の分子病態を解析した。その結果、本例では復帰変異を持つ骨髄系細胞に選択的に増殖していることを見出し、FAにおける体細胞モザイクがPBLの解析のみでは見逃される可能性を示した。一方、FAが高率に骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病への進行を示す理由として、DNA修復能の障害により、がん遺伝子やがん抑制遺伝子の変異が起こりやすくなる可能性が考えられているが証拠は示されていない。今回、我々はがん抑制遺伝子のメチル化異常が関与する可能性を検討した。その結果、11名のFA患者(MDS群-RA2名、RAEB2名;非MDS群-7名)の骨髄単核球において、5つの癌抑制遺伝子(p15, p16, DAP kinase, RAR-β, E-cadherin)のメチル化を解析したところ、11人中8名(72.7%)において1つ以上の遺伝子にメチル化の亢進が検出された。非MDS群の7名中4名(57.1%)に対して、MDS群4名全例にメチル化亢進が見られ、特にRAEB1例では3遺伝子にわたるメチル化が見られた。この結果は、がん抑制遺伝子のメチル化異常がFAの骨髄細胞で高頻度に見られることを示しており、これがFAにおける骨髄異形成症候群や白血病の発症に関与する可能性が考えられる。
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