研究概要 |
アンチトロンビン(AT)はヘパリン依存的に凝固因子を阻害する。本学におけるAT欠損マウスの作成・解析結果によれば、AT欠損ホモ接合体は受精後15.5日齢(E)で70%,16.5Eで全て死亡する胎生致死であり、心筋・肝臓における多発血栓及びDIC様の広範な皮下出血が死亡原因であることが判明している。組織因子(TF)は外因系凝固のイニシエーターである膜結合型糖タンパクである。その遺伝子欠損マウスは卵黄嚢の血管形成異常により、胎生中期にすべて致死にいたるが、TF低発現マウス(マウスのTF遺伝子欠損にヒトTF(hTF)cDNAのminigeneを導入したものでTF活性は1%に抑制)は、出生・発育可能である。今回、両遺伝子改変マウスの掛け合わせを行い、AT欠損により血栓性胎生死に陥る個体においてTF発現を極めて低くした場合、致死性を改善し血栓傾向に影響を与えることができるかどうかを解析した。結果、AT欠損/TFヘテロマウス(TF活性約50%)は17.5-19.5Eに、AT欠損/TF低発現マウスは(TF活性約1%)は19.5-20.5Eで全て死亡し、TF発現量に依存して子宮内生存期間は延長するものの救命までには至らないことが判明した。17年度はこれらについてさらに詳細な検討を行い、1.外観上、前者ではAT欠損同様の広範皮下出血個体を数例認めたが、後者では全く認めなかった。2.病理学的検討の結果、心筋では、AT欠損/TFヘテロマウスで16.5Eから全例フィブリン沈着を認め、血管血栓像を認める個体があったのに対し、AT欠損/TF低発現マウスでは心臓に明らかな異常を認めなかった。3.これに反して、肝臓ではともに門脈及び類洞を中心にフィブリン沈着を認めたが、その析出量の差は明らかでなかった。すなわち胎生期におけるTF依存性外因系凝固での臓器特異性の存在が示唆された。17年度はさらに、長期生存ATヘテロ/TF低発現マウスの心臓を解析した。同月齢のTF低発現マウスで報告された心筋の繊維化は認められず、AT活性半減によりTF欠乏による心筋内出血が抑制されており、また心臓の血栓形成においてTFの重要性が示された。
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