研究概要 |
PNHでは再生不良性貧血と同様に自己免疫介在性の造血不全が指摘されているが、その詳細は不明である。最近、我々は白血病細胞K562がPIG-A変異をきたしGPI蛋白を欠損すれば(GPI-細胞)、NK細胞傷害を受けにくくなることを報告した(Nagakura, Blood 2002)。これは特定のGPI蛋白がNK活性化の標的になることを強く示唆する。そこで本研究は、NK活性化リガンドとなるGPI膜蛋白および対応するNKレセプターを同定し、これらのPNH造血不全に関する病的意義を確立する目的で計画した。 まずGPI^-細胞のGPI^+細胞に対するNK感受性低下を確認したのち、この感受性差を生み出す責任分子を各種抗体による細胞傷害抑制試験により探索した。その結果、GPI結合型のNK活性化リガンドであるCMV糖蛋白UL-16結合蛋白(ULBP)を見出した。ULBPは感染や腫瘍化で誘導されるストレス蛋白であり、NKG2Dを受容体とする。そこで、このULBP-NKG2D受容体機構が実際の患者で造血細胞傷害に関与するか検証した。まず顆粒球のULBP膜発現を解析したところ、約6割の患者に発現していた。ULBP同様にNKG2Dを受容体とするストレス蛋白MICAも同時に検出できた。さらに、これらストレス蛋白陽性患者では、顆粒球に対し自己NKG2D陽性リンパ球(NK,CD8^+T)による細胞傷害活性が検出されたが、ストレス蛋白陰性の患者や健常人では傷害活性は検出されなかった。つまりPNH患者では何らかのストレスによりNKG2Dリガンドが造血細胞に発現誘導され、これを認識した自己NKG2D陽性リンパ球が造血細胞を攻撃すると理解できる。このように、ストレス蛋白ULBP,MICAはPNH造血不全発生に関わる重要な分子であり、広く免疫介在性造血不全の新たな臨床的指標としても期待される。
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