研究概要 |
MUM1/IRF4は多発性骨髄腫においてt(6;14)(p25;q32)転座によって転写活性化される原癌遺伝子であり転写制御因子である。近年MUM1は骨髄腫細胞以外にも予後不良病型であるActivated B-cell typeのB細胞性びまん性大細胞型リンパ腫(DLBCL)や成人T細胞性白血病あるいはB細胞性慢性リンパ性白血病(B-CLL)でも過剰発現している事が報告されている。我々は平成16年度の成果としてMUM1を過剰発現させたマウスのproB細胞株Ba/F3細胞のcDNAアレイ解析を用いてMUM1の転写標的遺伝子としてMIG, FKBP3,Faim, ZFP94を同定した。その中でもケモカインであるMIG(monokine induced by interfbron-gamma)はMUM1とPU.1のヘテロダイマーによって転写活性化を受けていること、B-CLL細胞株の約半数はMUM1,MIGに加えてMIGの細胞表面受容体であるCXCR3を発現しておりMIG-CXCR3システムがB-CLLの増殖を促進している事をMIGおよびCXCR3に対する中和抗体を用いた実験で明らかにした。平成17年度にはこの研究を発展させてAffymetrix GeneChipを用いてDLBCL細胞株および患者検体を用いてMUM1とMIGの発現レベルを検討した。その結果、MUM1発現が極めて高いレベルを示す細胞でのみMIGの過剰発現を認めた。しかしDLBCL細胞はCXCR3の発現を欠如しておりMIG-CXCR3がB細胞のDLBCL細胞の増殖に関与している可能性は否定的であった。そこで再度MUM1のBa/F3細胞に対する増殖促進作用を確認する目的でMUM1発現細胞株にMUM1のアンチセンス発現ベクターを導入した。その結果MUM1によって促進されるBa/F3細胞の増殖促進が部分的に解除されることを確認した。また骨髄腫検体において定量RT-PCR法を用いてMUM1発現と臨床病態との関連を検討した結果、MUM1発現量はM蛋白量と相関しており腫瘍量を反映している事が示唆された。そこでB細胞におけるMIG以外の細胞増殖促進に関与する下流標的遺伝子を同定する目的で、バーキットリンパ腫細胞株P3HR-1にCdイオンの存在下でMUM1の発現誘導が可能な安定細胞株を作成した。この細胞を用いて発現誘導前後のRNAを抽出しGeneChip解析を行った。Cdイオン自体で誘導される遺伝子を除くことによってMUM1の転写標的候補遺伝子を同定した。これまでにMUM1によって2.5倍以上に転写活性化される遺伝子として40遺伝子、MUM1によって1/4以下のレベルに発現抑制される候補遺伝子として29遺伝子を同定しそれぞれの候補遺伝子がMUM1の直接の転写制御を受けているか、またその腫瘍化に果たす役割について検討を進めている。
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