TCRζ鎖(ζ鎖)はTCRからのシグナル伝達に関与する重要な膜タンパクであることが知られているが、申請者らは近年、SLE患者T細胞ではexon7欠損を含んだmRNA open reading frame異常があり、その結果ζ鎖の発現が低下する可能性を報告した(Modern Rheumatol. 2002)。そこで本研究では、まずexon7を欠損したζ鎖mRNA(ζmRNA/exon7-)が優位に発現されることで実際にζ鎖を含めたTCR/CD3複合体発現が低下するかどうかをretrovirus vectorを用いたin vitroの系で検討することを今年度の目的とした。wild formζ cDNAとζcDNA/exon7-をretrovirus vectorであるpDON-AIに組み込み、MA5.8細胞(ζを欠損したmouse T cell line hybridoma)に感染させMA5.8mutant(それぞれWTならびにEX7-)を作製した。抗ζ抗体(TIA-2)を用いたWestern blotでは、EX7-でのζの分子量は小さく発現量もWTと比較して1/38と低かった。TIA-2と抗CD3ε抗体を用いたFACSでは、EX7-細胞表面上のζおよびTCR/CD3複合体発現も低下し、ビオチン標識細胞表面上分子を用いた免疫沈降法でも同様の結果であった。さらに、抗CD3抗体刺激後のIL-2産生もEx7-ではWTと比較して低下していた。ActinomycinDを加えた後のmRNA stability assayでは、ζmRNA/exon7-はwild formζ mRNAと比較して安定性が低く、このことがζmRNA/exon7-からのζ発現低下に結びつくことが推察された。以上のことから、ζmRNA/exon7-が発現されることでζのみならずTCR/CD3複合体発現も低下することがわかり、SLEの病態を考察する上で重要と考えられた。
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