研究概要 |
スフィンゴ糖脂質のライソゾームにおける遺伝性代謝障害であるスフィンゴリピドーシス(脂質蓄積症)は,その多くが中枢神経系に致死的な病変をきたす難病である。我々は,各種モデルマウスを作成し、その脳病態の解明と治療法の開発に取り組んでいる。本研究課題では、疎水性スフィンゴ糖脂質のライソゾームにおける分解に、酵素とともに必須であるスフィンゴ脂質活性化たんぱく質(サポシンA、B、C、D)の特異的ノックアウトマウスを作成し、以下の2つの研究項目に取り組んだ。1)サポシンAノックアウトマウスは、我々が作成した遅発型クラッベ病の疾患モデルである。遅発型クラッベ病の神経病変に対する骨髄移植の治療効果を検討する目的で、サポシンAノックアウトマウスに対して骨髄移植を行った。その結果、中枢神経系の脱髄病変がほぼ完全に抑制されることが明らかになった。しかしながら、末梢神経系の脱髄病変に対しては同等の治療効果は認められず、今後の検討課題が示唆された。2)サポシンDノックアウトマウスの神経病理所見を解析し,小脳プルキンエ細胞が選択的かつ進行性に脱落することを明らかにした。その脱落パターンは生理的に存在するparasagittal compartment (stripes)の分布にほぼ一致していた。また、セラミドをスフィンゴシン1リン酸へ代謝する酵素であるスフィンゴシンキナーゼの免疫組織化学的検討で、野生型マウス小脳におけるスフィンゴシンキナーゼの発現がparasagittal compartment (stripes)と関連し、サポシンD欠損マウスでは、スフィンゴシンキナーゼを発現していないプルキンエ細胞がより早期に脱落することを明らかにした。これらの結果より、セラミドを基本骨格とするスフィンゴ糖脂質が小脳の発達、維持、病態生理において重要な生理・病理機能を担っていることが示唆された。
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