本研究においてcalreticulinの発現レベルを心臓、肝臓、膵臓β細胞のそれぞれにおいて調節できるトランスジェニックマウスを作成した。これはloxP配列とストップコドンにより制御されたcalreticulin過剰発現トランスジェニックマウスと、組織特異的cre recombinase発現マウスとの交配により行った。また、組織特異的cre recombinase発現マウスとして、心筋細胞肝細胞、膵臓β細胞特異的なプロモーターであるNkx2.5プロモーター、アルブミンプロモータ、インスリンプロモーターの制御下にcre recombinaseを発現するトランスジェニックマウスを入手した。 前者のトランスジェニックマウスを用いて、肝細胞特異的にcre recombinaseを発現するマウスと交配し、肝細胞特異的なcalreticulin過剰発現マウスを作成した。トランスジーン由来のcalreticulinの発現は、トランスジーンの3'端に存在する小胞体残留シグナルの5'側に挿入したhemagglutinin(HA)タグを、抗HA抗体を用いることにより検出した。また肝細胞における内因性、外来性をあわせたcalreticulinの発現量は、calreticulinに対するポリクローナル抗体を用いて検出し、野生型との発現量の違いを比較した。ウエスタンブロット法を用いることにより、肝臓におけるcalreticulinの発現量を野生型と比較したところ、このトランスジェニックマウスは野生型の約1.5倍のcalreticulinを発現していた。このトランスジェニックマウスにおいて、肝細胞における糖、脂質代謝について解析した。Calreticulin欠損マウスは、糖、脂質代謝異常をおこすことが示唆されている。一方で、心筋細胞におけるcalreticulin過剰発現マウスは、不整脈を生じて突然死することが明らかになった。これらのトランスジェニックマウスは小児生活習慣病モデルとして有用である。
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