先天性核酸代謝異常症は、精神発達遅滞、自閉症、尿路結石、免疫不全など極めて多彩な臨床症状を示すことが知られているが、その程度はさまざまで特異性に欠けるため診断に苦慮することも多く、原因不明の神経疾患などとして経過観察されていることも予想される。このような疾患では、血液、尿、脳脊髄液といった生体試料での、核酸およびその代謝産物の測定は必要不可欠であり、疾患の診断を始め、病勢の杷握、治療状況の評価、重傷度判定、病態解祈等に役立てることができるが、1検体のみでの測定では判定困難な場合もあり、また経時的な変化が重要な場合もあるため、繰り返し短時間に行える測定法が望まれる。今回我々は尿酸、ヒポキサンチン、アデノシンといった核酸代謝産物に加え、日常的に臨床の場で使用されるプリン塩基であるテオフィリンと、食物に広く含まれるカフェインを測定対象に加え、タンデム型質量分析計での測定が可能となるよう検討した。各プリン塩基の標準検体を作成し、吸光度計を用いた高速液体クロマトグラフィーシステムに注入し、ODSコンベンショナルカラムでの保持時間の検討を行った。メタノールによるグラジュエントを併用し、およそ15分の分析時間でプリン塩基の溶出が可能であることが確認出来た。タンデム型質量分析計へ標準物質を導入した検討では、陽イオン検出モードでアデノシンは質量電荷比268にピークを認め、カフェインは質量電荷比196に、ヒポキサンチンは質量電荷比137にピークを認めた。一方テオフィリンは陰イオン検出モードで質量電荷比179に良好なピークを認めたが、陽イオン検出モードでは良好なピークは得られなかった。この結果今回使用したイオントラップ方質量分析計では検討した物質を同一のイオン検出モード分析することは難しく、2回以上の測定を行うことが必要と思われた。レッシューナイアン症候群の患児尿を用いた検討でも夾雑イオンが多く細かい解析は不可能だったため今後さらに適切な条件の検討が必要であると思われた。カラムスイッチHPLC法によるアデノシンの単独分析では良好な分離と定量結果が得られ、先天代謝異常症患者尿や人工呼吸管理中の重症呼吸障害児でアデノシン排泄の解析が可能であった。
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