研究概要 |
乳幼児下痢症の主たる病原体であるヒトロタウイルス(HRV)に対しては、感染・発症を防御するワクチン開発が急務とされる一方で、抗体の経口投与による受動免疫の効果も確認されている。従って、交叉反応性ヒト型抗HRVモノクローナル中和抗体(N-mAb)は、特に免疫不全・免疫抑制状態にある患者に対して、治療や予防に有効であることが期待されるとともに、それらが認識する中和エピトープの解析は、有効なワクチン開発に寄与するところが大きい。 このような背景の中、我々は平成17年度までに、黒澤良和教授らが作成したヒト型のファージ抗体ライブラリーから、複数のヒトロタウイルスに対して中和活性を有する、ヒト型抗VP4ならびに抗VP7抗体産生クローンを数種単離し、代表的な3クローンに関して、in vitro系を用いた詳細な解析や(Jounal of Virology,2004)、健常マウスのモデル実験系を用いたin vivoにおける受動免疫効果(抗体の経口投与1時間後にウイルスを経口投与)の検証を行った。 今年度には、ワクチンによる防御効果が期待できない、免疫不全あるいは免疫抑制状態にある患者に対する感染予防・治療を目指し、SCIDマウスを用いたモデル実験系での受動免疫効果を検証したが、その効果が健常マウスのそれに比してやや低いことが判明した。効果低下の一因として、経口投与された抗体の消化管における分解が考えられ、この問題を解決すべく、乳酸菌Lactococcus lactisによる抗体の腸管内常時発現システムの構築を開始した。更に、米国ハーバード大学・Dormitzer博士との共同研究で、我々が単離した2つの抗VP4抗体が認識するヒト特異的交叉反応性中和エピトープの立体構造上の位置を、結晶化解析により同定した(Jounal of Virology,2006)。
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