乳幼児下痢症の主たる病原体であるヒトロタウイルス(HRV)に対しては、ワクチン接種が感染・発症の防御に有効であり、欧米を中心にその開発が精力的に行われている。一方、モデル実験系における受動免疫の効果も確認されており、in vitro系での大量産生が可能な交叉反応性ヒト型抗HRV中和抗体は、特に免疫不全・免疫抑制状態にある患者に対する治療や予防に有効であると期待される。また、それらが認識する中和エピトープの解析は、安全で有効なワクチン開発に寄与するところが大きい。このような背景の中、我々はファー一ジ抗体ライブラリーから、HRV KU株を中和するヒト型のモノクローナル中和抗体(N-mAb)を12クローン単離し、H鎖の異なる代表的な3クローン(1-2H、2-3E、2-11G)に関して詳細な解析を行った。そして、前者2つが交叉反応性抗VP4中和抗体、2-11GがG1タイプ特異的抗VP7中和抗体であること、これら3抗体の抗原認識に重要なVP4及びVP7タンパク上のアミノ酸は、これまで報告されているマウスの抗HRV中和抗体のそれらと異なることを示すとともに、前者2抗体の抗原認識に重要なアミノ酸のVP4タンパク質立体構造上の位置を、結晶化解析により決定した。現在、ヒト型抗体の認識に重要なウイルスタンパク上のアミノ酸の網羅的なマッピングを目指し、複数のヒト型ファージ抗体ライブラリーからの抗HRV中和抗体単離を継続中である。一方、受動免疫に関しては、健常乳飲みマウスのモデル実験系で、上記3抗体のHRVに対する受動免疫効果を確認したが、免疫不全・免疫抑制状態のモデルとして用いたSCIDマウスでは確認できなかった。その原因の一つに、抗体の経口投与に付随する消化管での分子分解を想定し、これを解決すべく、腸管内における抗体の持続発現系の構築を目指して乳酸菌Lactococous lactisによる抗体発現を試みた。結果、1-2Hは抗体分子発現並びにそれらの中和活性が確認できたが、2-3Eと2-11Gに関しては、発現の過程で抗体分子が高度に分解されており、中和活性も認められなかった。現在、内在性プロテアーゼをノックアウトした乳酸菌株の分与を依頼中であり、入手次第、抗体の発現と中和活性の有無を検討する予定である。
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