周生期脳損傷の治療法として、自己再生能、多分化能をもつ神経幹/前駆細胞移植が有効であるかどうかを明らかにするために、脳性マヒモデルラットを用いて検討した。 ヒトの新生児期に相当する生後7日令のラットに頸動脈結紮・低酸素処理をした新生児期脳損傷(Hypoxia-ischemia)モデルラツトを作製した。受傷翌日に、胎生14日令のGFPトランスジェニックラット終脳由来の神経幹/前駆細胞をNeurosphere培養で増殖させておいた細胞群を、脳室内投与した。受傷8日後に、脳室内投与したGFP陽性神経幹/前駆細胞が生着しているか否かを検討するとともに、梗塞巣への影響を比較した。移植したGFP陽性神経幹/前駆細胞は、ラット脳内に生着しうること、また梗塞巣に生着しやすい傾向があることが観察されたが、神経幹/前駆細胞投与による梗塞巣の軽減効果はみられなかった。 一方、生着する細胞が少数であったため、Neurosphere培養でプレートへの接着性の促進が観察された細胞外マトリックスに対する酵素を神経幹/前駆細胞とともに脳室内投与してみた。酵素を同時投与した細胞群では、細胞のみ投与群に比較して、梗塞巣が軽減している傾向が観察された。最近、脊髄損傷などで細胞外マトリックスに対する酵素処理によって細胞外環境を制御することにより、神経再生が促進されることが報告されている。発達期脳にも様々な細胞外マトリックス分子が豊富に存在しており、損傷脳においてこの酵素が細胞外環境を変えることにより、何らかの作用で周生期脳損傷を軽減していることが示唆された。この酵素処理による脳梗塞の軽減が、どのような機序によるものかを明らかにするとともに、神経幹/前駆細胞の生着および神経細胞への分化を促進する移植方法の検討を行っていくことが今後の課題である。
|