自己再生能、多分化能をもつ神経幹/前駆細胞を脳内に移植することが、周生期脳損傷の治療法として有用であるかどうかを調べるために、新生児期脳損傷(Hypoxia-ischemia)モデルラットを用いて検討している。これまでに、移植した神経幹/前駆細胞はラット脳内特に梗塞巣に生着しやすいが、神経幹/前駆細胞移植により梗塞巣の軽減効果はみられないこと、また、細胞外マトリックスに作用する酵素を神経幹/前駆細胞とともに脳室内投与すると、梗塞巣が軽減する傾向があることがわかっている。 今年度は、神経幹/前駆細胞がどのような機序で脳損傷軽減効果をもたらすのかを明らかにするために、培養ニューロンのグルタミン酸毒性に対する神経幹/前駆細胞の保護効果を検討した。Poly-L-lysineをコートしたプレートに大脳皮質ニューロンを培養し、培養13日目にNeurosphere由来の神経幹/前駆細胞をtranswellを介して、共培養した。その翌日、NMDAを投与し、ニューロンの細胞死をLDH assayを用いて検討した。神経幹/前駆細胞と共培養したニューロンでは、明らかに神経細胞死が抑制されたが、細胞外マトリックスに作用する酵素の分解産物等には神経細胞死抑制効果は観察されなかった。 以上の結果から、Neurosphere由来の神経幹/前駆細胞には神経細胞死を保護する何らかの成分が含まれていることがわかった。しかし、細胞外マトリックスに作用する酵素の分解産物には神経保護効果がなかったことから、モデルラットを用いた系で観察された梗塞巣の軽減効果は、酵素が働くことにより脳内環境が変わり、神経幹/前駆細胞由来の神経保護因子が梗塞巣に到達しやすくなっているためであることが推測される。今後は、神経幹/前駆細胞由来の神経保護因子の同定および単独投与では梗塞軽減効果の得られない理由について、さらに検討していく予定である。
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