周生期脳損傷の新規治療法として、自己再生能、多分化能をもっ神経幹/前駆細胞移植が有効であるか否かを検討することが本研究の目的である。これまでに、新生児低酸素性虚血性脳症(HIE)モデルを用いて、神経幹/前駆細胞移植とともにコンドロイチナーゼというコンドロイチン硫酸糖鎖を分解する酵素を投与すると、脳虚血による梗塞が軽減することがわかっている。 今年度は、神経細胞死を抑制する新たな分子の探索をめざして、培養系での神経細胞死誘発実験を行った。胎生16日目のラット胎仔大脳皮質神経細胞を2週間培養し、発達期脳の微細細胞周囲環境分子であるコンドロイチン硫酸などを前投与した24時間後に、NMDAなどの興奮性アミノ酸を投与し神経細胞死を誘発した。神経細胞死は遊離してくるLDH活性を測定することにより定量した。その結果、哺乳類の脳では微量構成成分であるCS-Eというコンドロイチン硫酸糖鎖を前投与しておくと、神経細胞死が抑制されることがわかった。このCS-Eによる神経細胞死抑制効果は、容量依存性であった。パッチクランプ法を用いて、NMDAに対する応答を比較したところ、CS-E存在下でも神経細胞のNMDAに対する反応性は変わらなかった。また、CS-Eを前投与しておくとNMDAによるcaspase-3の上昇が減弱した。以上のことから、CS-Eは神経細胞に何らかのシグナルを伝えることにより、細胞死を起こさないようにしていることが推察される。今後、さらにこの機序について、検討していく予定である。
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