これまでに我々はマウスを用いた実験で、表皮最外層である角層を剥離することにより表皮内DCであるランゲルハンス細胞が活性化し、免疫機能が亢進ことを見いだした。またこの角層剥離皮膚に悪性黒色腫特異的ペプチドを貼付することにより極めて簡便な方法により効率よくペプチド特異的細胞障害性T細胞(CTL)を誘導することを示した。この方法をヒトに応用するための第一段階として、我々は正常人において経皮免疫によるCTLの誘導が可能であるかどうかを調べた。HIV非感染健常人ボランティアの角層剥離皮膚にHIV由来合成ペプチドを貼付したところ、数回の貼付により末梢血中に同抗原を特異的に認識するT細胞受容体を持ち、抗原刺激に反応してHIV抗原特異的にインターフェロンガンマを産生するCTLが出現することを見出した。悪性黒色腫第IV期に対する臨床試験では、これまでに浜松医大皮膚科において10例の進行例に施行し4例で腫瘤の縮小、または拡大、再発の予防効果が見られている。副作用として4例に軽度の白斑が見られたが生活上問題となるものではなかった。これらの患者でも健常人ボランティアと同様にペプチド特異的CTLが誘導されることがわかった。患者末梢血を免疫ペプチドの刺激で培養することにより、末梢血の約30倍まで高濃度にCTLを含む細胞群を精製することができた。この細胞群をエフェクターとして用いた実験では、免疫ペプチドを標識した標的細胞を効率よく障害することがわかった。これらの患者のなかで、治療中止後に、末梢血中の腫瘍特異的CTLの濃度の低下とともに悪性黒色腫が皮下腫瘍として再発した症例が2例存在した。治療再開後に腫瘍を摘出して病理学的に調べたところ、腫瘍細胞に分け入る様にリンパ球が浸潤して腫瘍細胞が壊死やアポトーシスを起こしている所見が得られた。病巣内に浸潤しているリンパ球を解析したところ、末梢血の10倍以上の濃度で腫瘍特異的なCTLが確認された。この腫瘍内に浸潤するCTLからクローンを確立して解析を継続する予定である。
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