アンドロゲンによる毛乳頭細胞におけるTGF-β1の発現調節のメカニズムを解析する目的で、転写開始点から1362bp上流までのプロモーター領域を含むルシフェラーゼレポータープラスミドを作成し、アンドロゲンレセプター(AR)発現ベクターとともに男性型脱毛部毛乳頭細胞にトランスフェクトした後、レポーター活性へのアンドロゲンの影響を調べた。その結果、1nMの合成アンドロゲンR1881がTGF-β1プロモーター活性を約10倍に増強することがわかった。しかし、この活性の増強はサル腎細胞CV-1細胞、トランスフォームした男性型脱毛部毛乳頭細胞では見られず、培養初期の男性型脱毛部毛乳頭細胞に特異的な現象であった。レポータープラスミドを制限酵素で切断し様々な長さのプロモーターをつないだプラスミドを作成し男性型脱毛部毛乳頭細胞で同様の実験をしたところ、-1131〜-731と-459〜-323に正の調節領域があり、-1326〜-1127と-735〜-459に負の調節領域があった。-1131〜-731の領域にはアンドロゲン応答性のコンセンサス配列5'-GCC AGT TGG CGA GAA CAG TTG GCA CGG Gがあり、アンドロゲンによるTGF-β1の発現調節部位である可能性が示唆された。しかし、このコンセンサス配列の繰り返し配列を組み込んだレポーターベクターを用いたアッセイにてこの領域はアンドロゲンに応答しないことがわかった。そこで-459〜-323の領域に2つ存在するAP-1結合配列に着目しこの部位に変異を導入したところ野生型ベクターではアンドロゲン応答が見られたが、変異型ベクターではアンドロゲン非処理にてもレポーター活性の上昇があり、このことからAP-1サイトで転写因子AP-1がTGF-β1プロモーターを抑制しているが、そこにARダイマーが接近してくることでその抑制がはずれることが推測された。
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