研究概要 |
21q22および22q12にマッピングされている双極性障害の疾患感受性遺伝子の解明を目的として、有力な候補遺伝子について多型解析を行った。我々が以前に発見した脳に多く発現する新しいタイプのカルシウムチャネルTRPM2 (transient receptor potential melastatin 2)は機能的、位置的に有力な候補遺伝子である。最近、双極性障害患者由来のBリンパ芽球細胞株の一群でそのmRNA量の有意な低下が報告されたことから、この遺伝子の転写調節領域の解析を進めた。脳のmRNAを用いた5'RACEを行い、従来報告されている第1エキソンとは全く異なる位置に真の転写開始領域を見いだした。さらに脳の線条体(被殻、尾状核)に特異的に発現する第2のプロモーターを遺伝子内に発見した。後者から転写されるmRNAは、これまでに報告されていない線条体に特異的な短型TRPM2蛋白をコードしていたが、この短型蛋白もカルシウムチャネルとして機能していた。新しく発見した第1エキソン周辺から欠失と挿入を伴う多型を同定したが、日本人双極性障害患者群(96名)と健常対照群(210名)において有意な差は認められなかった。 一方、2003年に22q12のADRBK2/GRK3 (adrenergic, beta, receptor kinase 2/G protein receptor kinase 3)遺伝子のプロモーター領域に疾患との関連が示唆される多型の報告が北欧の双極性障害家系で見られた。同遺伝子のプロモーター領域の多型と本邦における双極性障害の発症との関連を検討した。しかし、北欧の家系において疾患との関連が示唆されたプロモーター領域の多型は本邦の患者群、健常対照群のいずれにも認めなかった。また、その他のプロモーター領域の多型についても双極性障害との関連はなかった。
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