研究概要 |
長崎市在住の原子爆弾被爆者に対し、1)生活背景、2)身体的健康状態、3)被爆者健康診断の状況、4)心の健康状態、5)社会生活状況などに関する質問が含まれた調査票を郵送法でアンケート調査を行った。回答者は約3万5千人(回収率:72.2%)であった。 今回の分析対象者は、非精神病性の精神障害が存在する可能性を測定する尺度として開発され、国際的にも頻用されているGHQ-60の縮小版であるGHQ-12 (General Health Questionnaire 12項目版)と原子爆弾被爆体験が心的外傷をもたらしたか否かを測定する改訂出来事インパクト尺度日本語版IES-R (Impact of Event Scale-Revised)の両尺度を完全回答していた被爆者に限定した結果、19,923人となった。 GHQ-12得点が4点以上を示した「非精神病性の精神障害が疑われる」と判断されたのは全対象者の24.6%にも達していた。また、IES-R得点が25点以上を示し「原子爆弾被爆体験が強度の心的外傷として残っている」と判断された人は全対象者の28.1%であった。GHQ-12得点とIES-R得点との関係から分析してみると、明らかにIES-R得点が高い被爆者はGHQ-12得点も有意に高いという関係にあることが確認された。したがって、原子爆弾被爆体験が心的外傷となり、その心的外傷体験が約60年が経過した現在においても精神的状態に悪影響を残している可能性が示唆された。 また、「被爆者であることを口に出すことが出来なかった」という体験を有する被爆者も多く、特に女性ほど、年齢が若いほど、その傾向が強かった。被爆体験そのものがスティグマとして存在し、心理的・精神的圧迫感と被差別感を抱いたまま生活を送っている状態も明らかになった。それらの要因も精神的状態の悪影響に関与していた可能性もある。
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