ウイスター系ラットの脳内にelectric eelから抽出されたacetylcholinesterase(AChE:EC3.1.1.7)を注入し、一定の生存期間をおき、組織化学的技法で観察した。灌流固定した脳を取り出し、凍結切片を作成したのちサイオフラビンS(TFS)による蛍光組織法、AChE組織化学技法、Aβ42蛋白の免疫組織化学で染色し観察した。方法は、凍結乾燥されたAChEをタンパク量で1%、5%、10%として生理食塩水に溶解し、マイクロシリンジを用い、深麻酔下でラット脳内(大脳皮質右側頭葉、右海馬、右視床内側核)に0.25μlを30分間で注入した。注入後は、1日、7日、14日、28日、84日の生存期間をおいた。期間終了後の脳の取り出しは、ラットを深麻酔下で開胸の上潅流固定し、摘出後も浸漬固定した。4%パラホルムアルデヒド(PFA)と0.5%グルタールアルデヒドを潅流固定液として用い、4%PFAで浸漬後固定液として用いた。固定した脳は、炭酸ガス凍結法で凍結切片にし、浮遊切片として用いた。染色の浸透性と均一性を向上させるため浮遊切片のまま、条件を一定に保つため組織化学反応は振盪機上で行った。反応液は我々がかつて報告した方法(Tago method)を応用し、特異的抑制剤にはBW284C51を用いた。対照としてCresyl VioletによるNissl染色を行った。Aβ42蛋白の免疫組織化学ではABC法を用いて染色を行った。各濃度別の結果は、1%、5%、10%いずれの溶液も、注入後1日目には注入部位と刺入部位にAChE陽性所見が認められたのみであった。7日目には一部組織の欠損像が認められたものの、AChE陽性所見はなく組織学的な酵素活性は消失していた。14日、28日、84日後も同様であった。このため、10%溶液の注入で検討した。その結果、AChE陽性構造は大きな変化はなかったもののTFSで染色した切片は14日以降に少量ながら蛍光顕微鏡下で注入部位のみに陽性沈着物が認められた。Aβ42蛋白の免疫組織化学では、28日以降に微量ながら注入部位にTFS陽性沈着物と類似した形態の陽性構造が認められた。 これらの所見から、AChEによる著明な病理変化は認められなかったが、微量ながら注入部位に異常な沈着物が出現しこれらがアミロイド蛋白である可能性が示唆された。
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