研究概要 |
本科学研究費補助金を用いて、強迫性障害(obsessive-compulsive disorder ; OCD)の多様性に関し、セロトニン・ドーパミン関連蛋白の多型に関する遺伝学的検討の予備的研究を多角的に行った。特に衝動性に注目し、臨床的に有意性を持つ衝動性の指標には、DSM-IVのimpulsive control disorders(borderlineやantisocial Personality Disorderを含む)のcomorbidity、及び衝動性の定義を満たす自傷行為や衝動買い歴などを用いた。群分けには、高度の信頼性を確保する為に、自記式質問紙をスクリーニングに開発し、面接法による診断を併行した。これにより、OCD患者153例中45例(29%)が「高度の衝動性を有する群」に該当、この群では、若年発症、洞察不良やうつ病の既往が有意に高率であり、更には予後不良が有意であるなど、差異的臨床像を認めた。この結果は、衝動性を有する一群の特異性、すなわち亜型を構成する可能性を支持するものであり、また従来の衝動性と強迫性とを線上対局軸に捉える定説に疑問を投じるものとなり、2005年Comprehensive Psychiatry誌第46巻43-49頁に報告した。これらの結果を、生物学的指標を用いより客観的に裏付けする目的で、セロトニントランスポーター、カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)、ドーパミンD4受容体(DRD4)を対象とした遺伝子研究も併行している。最近の遺伝子研究では、遺伝子多型とOCDの臨床像や治療反応性などとの関連が検討されている。中でも5-HTやDA系の各受容体、トランスポーター、そのプロモーター領域などが注目されており、例えば5-HT2Aや5-HT1Dβ、DRD4受容体などの遺伝子多型が、OCD自体やその早発に(Rauch, Stein, Denys2006)、そして5-HTTLPRやDRD4などは、TDやTS関連性OCDの発現に、それぞれ関連する可能性がある(Leckman2002)。我々の研究結果では、例えば衝動性を有する群の一部では、COMTやDRD4などドーパミンに関連した対立遺伝子多型に特異性を認める。これについては、衝動性が高度なOCD患者や、早発例に関する検討から、両者の有意な関連性や重複を予備的検討の中で確認している(興野ら2004,Matsunaga et al.2005)。このことから、従来の欧米での遺伝学的報告と、概ね一貫した結果が予想されるが、現在まで80例の参加が得られ、共同研究者のDan.J.Steinらとの共同発表を目指しており、現在準備段階にある。
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