自閉症(自閉性障害)の発症および予後に関与する心理社会的要因を抽出するための作業を行った。平成16年度は研究初年度であるため、研究のための基盤整備を行った。ひとつは、本研究に使用するため、さらには自閉症以外の発達障害一般にも使用可能な予後調査のための質問紙を作成することである。自閉症の予後は社会的不適応や知的機能によって評価されることが多いが、それらが実際の自閉症の子どもあるいはその養育者の本当の意味での予後を表現しているとは言いがたい。そこで本研究で用いる予後調査のための質問紙は、自閉症児およびその養育者のquality of life(QOL)に注目した。また、自閉症児の現在症としての問題行動の有無、日常生活動作の自立度、学習や学校場面での行動上の問題についてもあわせて評価できる内容のものを作成した。作成の途上にあっては、日本小児心身医学会で行っている学術研究の方法論を参考にした。 作成した質問紙を用いて、健常児(就学前の児)の養育者99人を対象に調査を行った。その結果、就学前の児童の子どもにみられる問題行動の有無や日常生活動作の自立度、および養育者の感じるQOLを評価できることが明らかになった。質問紙の信頼性として、問題行動のパートではCronbachのα係数は0.8と良好であった。質問紙の因子分析を行い、健常児にみられる問題行動は、不注意・多動・社会的コミュニケーション・病的行動の大きく4つの因子をもつことが明らかになった。さらにそれぞれの因子得点と養育者のQOL感覚の相関をみると、多動および社会的コミュニケーションの尺度得点とQOL感覚の低さに相関があることが明らかになった(r=0.56)。 次年度は、対象を発達障害児(自閉症、広汎性発達障害、注意欠陥多動性障害など)に拡大し、健常児との比較を行う。また、心理社会的要因の調査を行うため、日常生活でのストレス(ライフストレス)評価尺度および日常のいらだちごと尺度を児童本人に記録可能なものを作成し信頼性、妥当性の検討を行う。また司法領域でケアを受けている発達障害児の実態調査のための準備を開始する。
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