【目的】ニコチン(NCT)の強化効果は、動物実験では弱いとされているが、ヒトでは禁煙が困難であることから、NCTの摂取欲求は必ずしも弱いとはいえない。このような現象(ニコチン・パラドックス)の機序として、「喫煙時の環境刺激がNCTの強化効果と結びつき、環境刺激がNCTの摂取欲求を惹起するようになる条件づけ機構」が強くはたらくことを考え、その脳内神経学的機序として、昨年度は扁桃体の基底外側核と脳内報酬系部位である側坐核coreの関与を検討した。二年度にあたる本年度は、他の報酬系部位である腹側被蓋野と内側前頭前野について検討した。 【方法】環境刺激が二次性の強化効果を獲得する動物モデルである条件性場所嗜好(CPP)を形成させたラットについて、CPP形成後6カ月間にわたって、NCTに条件づけられた環境刺激と条件づけ薬物のNCTの二種類の手がかり刺激によるCPPの維持について検討した。そして、その脳内神経学的機序の検索のために、腹側被蓋野と内側前頭前野のdopamine(DA)神経破壊の影響を検討した。 【結果】NCTによるCPPは、NCTに条件づけられた環境刺激によって形成後6カ月間維持され、その程度はNCTによる場合と同程度であった。脳内破壊実験では、腹側被蓋野のDA神経の破壊では、NCTに条件づけられた環境刺激を手がかりとしたCPPが破壊の6カ月後に減弱した。内側前頭前野のDA神経の破壊では、NCTを手がかりとしたCPPが破壊の1週後に減弱した。 【結論】昨年度の結果と合わせて考えると、NCTの摂取欲求の維持や喫煙の再発には、NCTに条件づけられた環境刺激が関与していることが示された。その脳内機序として、環境刺激を手がかりとした摂取欲求の発現には扁桃体の基底外側核と腹側被蓋野のDA神経が、NCTを手がかりとした摂取欲求の発現には内側前頭前野のDA神経が関係していることが示唆された。
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