研究概要 |
統合失調症とてんかん精神病に共通する神経回路障害と,相違する神経回路障害とを明らかにする目的で,各種眼球運動課題を遂行中の機能的MRIを撮像した.脳形態画像に粗大な異常がなく,機能的MRI撮像中の頭部の動きが2mm以下であった例を解析対象とし,健常者21例,統合失調症18例,てんかん精神病5例となった.視覚誘導性サッケード課題では,前頭眼野,補足眼野,頭頂眼野が賦活され,健常人に比べて統合失調症とてんかん精神病では前頭前野を含む皮質の過剰賦活がみられた.アンチサッケード課題では,健常者と遂行成績良好な統合失調症では前頭・頭頂眼球運動回路の生理的な賦活増強がみられたが,遂行成績不良な統合失調症とてんかん精神病ではこのような生理的賦活増強がみられなかった.また,健常者では皮質下の線条体・視床回路の賦活が認められたが,統合失調症とてんかん精神病では皮質下の賦活はみられなかった.記憶誘導性サッケード課題では、難易度に応じて,前頭前野,前頭・頭頂眼球運動回路,線条体・視床の賦活が増強したが、統合失調症では前頭前野と線条体・視床の賦活増強がみられなかった。標準的な追跡眼球運動課題では,とくに左側の前頭・頭頂眼球運動回路に加えて,外側頭頂・後頭接合部の賦活がみられた.指標を点滅させてカウントさせる注意喚起時の追跡眼球運動課題では,健常者とてんかん精神病では右側の前頭・頭頂眼球運動回路の賦活上昇が認められたが,統合失調症ではこのような注意関連の右側半球賦活増強はみられなかった.以上より,統合失調症とてんかん精神病に共通する異常として,容易な課題で皮質の過剰賦活,複雑な課題で皮質下の賦活欠如が確認された.一方,前頭前野の賦活低下と注意関連賦活の欠如は統合失調症に特異的と考えられた.
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