本研究の目的は、てんかんの外科的治療の術前評価における臨床応用を究極の目的として、てんかん患者における記憶機能にかかわる優位半球の側方性(memory lateralization)をfMRIを用いて同定し、正常者との違いを検討することである。平成16年度は正常者の症例を増やし、特に左手利きにおける右半球優位の出現頻度を検討することと、部分てんかん患者の症例数を増やすことに重点を置いた。 対象は健常者は右手利きが2例、左手利きが5例増え、過去の例数と併せて39例(右手利き30例、左手利き9例)になった。部分てんかん患者は3例増え過去の例数と併せて10例(側頭葉てんかん7例、前頭葉てんかん2例、未決定部分てんかん1例;右手利き9例、左手利き1例)になった。方法は言語性記憶課題として先に記憶した単語を後で頭の中で想起するtask1 (covert test)と、後で唇を動かすだけで声を出さずに言うtask2 (overt test)、視覚性記憶課題として先に記憶した図形を後で頭の中で想起するtask3を設定した。また一部でf-MRIの脳内賦活の再現性についても検討した。 結果として言語性記憶課題のtask1では上前頭回や前部帯状回の内側前頭葉、中前頭回、下前頭回が主に賦活され、構音運動が加わったtask2ではそれらに加えて、中心前回が主に賦活され、これらの部位の側方性は右手利きでは左側優位25例、右側優位例なし、両側性(左右同等の賦活)が3例、賦活不良2例、左手利きでは左側優位4例、右側優位3例、両側性1例、賦活不良1例であった。すなわち記憶の側方性も言語優位半球と同様に利き手と関係し、左手利きでは右手利きに比べて右側優位の出現頻度が有意に高かった。視覚性記憶課題のtask3では両側後頭葉が賦活されたが、左右差は一定しなかった。f-MRIの脳内賦活の再現性は良好であった。右手利きの部分てんかん患者の言語性記憶課題における賦活部位は、右手利きの健常者と同様で、焦点部位が左右どちらでも左側優位であった。ただし、左手利きで左前頭葉焦点を有する1例では右側優位がみられたが、これは焦点との関係(神経可塑性により焦点と反対側へ移動したという考え)よりも、やはり利き手との関係が強いと考えられた。
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