ラット新生児より採取した心筋細胞を、ダルベッコMEM/ハム12等量混合培地にインスリン、トランスフェリン、および牛胎児血清5%を添加した培地で5日間培養した心筋細胞に2Gy、5Gy、10Gy、20Gy、および50GyのX線照射を行い、エンドセリン遺伝子mRNAの発現量について、RT-PCR法を用いて検討を行った。その結果、X線の10Gyから50Gyの線量において、照射2時間より8時間後にかけてエンドセリンmRNAの発現量の増加を認めた。定量的評価の結果、増加量は最大270%という結果が得られた。心筋細胞は50GyのX線照射によっても、24時間後の細胞生存率の低下は観察されず、培養心筋細胞はX線による細胞障害に対し強い抵抗性を示すことが分かった。細胞に対する放射線の照射は、細胞内にフリーラジカルを生じさせることが知られているため、このラジカル発生によるラジカルスカベンジャー分子の誘導が起こるかどうかについてmRNAの発現についても検討を加えた。その結果、エンドセリンの場合と同様に、Mn-SOD、カタラーゼ遺伝子の有意な発現増加が認められた。これまでの情報から、エンドセリンmRNAの細胞内での発現上昇には、低酸素刺激やトロンビン刺激などとともに、細胞内に発生するラジカルに起因する場合が報告されており、X線照射による細胞内エンドセリンmRNA産生の上昇には、X線照射に起因するラジカルの産生が関与することが示唆された。次に、エンドセリンのmRNAの発現上昇が、エンドセリンペプチドの産生上昇につながるかどうかを検討するため、培養心筋細胞に20GyのX線を照射後、12時間、24時間後の培養液を採取し、その中のエンドセリン分子についてELISA法を用いて定量を行った。しかし、培養液中には有意な量のエンドセリン分子の産生は認めることが出来なかった。この結果は、分子の産生量が測定に十分で無いのか、あるいはエンドセリンmRANの上昇が分子の産生につながっていない、単なる遺伝子発現の変化でしかないことを示唆しており、この点についてはさらなる検討課題である。
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