研究概要 |
目的 より効率のよい放射線癌治療を行うためには、放射線で誘導されるアポトーシスを積極的に増強させるか、放射線照射後も細胞を生存に導く細胞内反応系を阻害することが有効と考えられる。本研究は後者の考えに基づき、放射線によって生じたDNA損傷の修復系を阻害することにより細胞死を誘導し放射線感受性を高めることを目的としている。放射線によって生じたDNAの2本鎖切断は主に2つの修復系(Homologous recombination,HRとNonhomologous end-joining, NHEJ)によって修復される。昨年度はHR/NHEJ修復系に関与するNBS1遺伝子の発現をsmall interference RNA(siRNA)によって特異的に阻害することにより、癌細胞を死に導き放射線感受性が高められることを明らかにした。本年度はNBS1標的siRNAによる放射線増感に細胞生存シグナル伝達系も関与していることをさらに詳しく調べた。 方法 p53欠損ヒト非小細胞肺癌H1299細胞に正常型あるいは変異型p53遺伝子を導入した細胞(H1299/wtp53、H1299/mp53)を用いた。NBS1を標的としたsiRNAを発現するDNAカセット(SEC)をX線照射処理の2日前にliposomeで細胞内に導入した。ウエスタンブロッド法と免疫蛍光染色法でNBS1、リン酸化NBS1、Mre11およびRad50蛋白質の量的変化と細胞内局在、免疫沈降法で蛋白質結合様式を検討した。さらに、細胞生存シグナル伝達系ではたらくアポトーシス抑制タンパク質ファミリーの1種であるXIAPタンパク質を阻害するため、XIAP標的siRNAを設計、合成して細胞内に導入した。 結果 1.NBS1標的siRNA導入によって細胞生存シグナル伝達因子であるNF-κBとXIAPの蓄積誘導が阻害された。 2.XIAP標的siRNA導入によりXIAの蓄積誘導が特異的に抑制された。 3.NBS1あるいはXIAP標的siRNA導入によって放射線感受性が増強された。 4.NBS1あるいはXIAP標的siRNA導入による放射線増感率は変異型p53細胞の方が正常型p53細胞よりも高かった。 考察 NBS1あるいはXIAP標的siRNAは難治性の変異型p53細胞の放射線増感に有効であること、DNA修復系および細胞生存シグナル伝達系の阻害によって放射線増感が誘導されることが示唆された。
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