研究概要 |
Phosphoglucose isomerase(PGI)は,解糖系に関与する糖代謝酵素であり,癌患者血清中の活性は上昇ると報告されている。Autocrine motility factor(AMF)は,癌細胞が分泌する細胞運動促進因子として発見されたサイトカインであるが,PGIと同一な蛋白質であることが証明されている。我々は,PGI/AMFが自己分泌型の成長因子であり,膵臓癌において肝転移と腹膜播種を促進することを発見した。次に,ヒト大腸癌細胞株DLD-1細胞にリポフェクション法にてヒトPGI/AMF遺伝子を導入し強制発現させた。AMF強発現では,親株と比べて約3倍のタンパクとmRNA発現を認め,その細胞運動能は亢進していた。また,ヌードマウス盲腸へ同所性移植モデルでは,AMF強発現株において肝転移と腹膜播種の割合が有意に高たった。さらに,siRNAを用いてPGI/AMFをノックダウンすると,細胞の増殖能と運動能は有意に低下した。大腸癌手術摘出標本を用いた免疫染色では,PGI/AMFは癌組織で強発現していた。また,E-カドヘリンの発現とは逆相関を認めた。PGI/AMFに対するsiRNAを用いてPGI発現を抑制したところ,in vitroで癌細胞株の浸潤能は低下した。PGI蛋白は,ubiquitin-lysosome systemによって分解される。酵母Two-Hybrid sysemを用いてPGIと結合する蛋白質の探索を行なったところ,poly(ADP-ribose)polymerase-14(PARP-14)と結合することを確認した。PGI蛋白はPARP-14と結合することにより,ユビキチン化が抑制され安定した状態を保つことができることが証明された。PARP-14をターゲットとした研究により,PGIの機能を抑制できる可能性が生まれた。
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