臓器移植ドナー不足の究極的解決策としてブタを用いた異種移植に期待がかかる。しかし、同種移植に匹敵する成績を得るには、マクロファージ性拒絶反応を制御する必要があると考えられているが、その詳細な機序は未解明である。我々は異種移植におけるヒトマクロファージ性拒絶機構の解明とその制御法を確立する目的で以下の研究を行った。 1.ヒト末梢血マクロファージ・肝網内系マクロファージを分離し、抗体補体非存在下における異種細胞貪食試験・細胞傷害性試験を確立した。その結果ヒトマクロファージにはブタ細胞に対し抗体補体非依存性の貪食能・細胞傷害能が存在し、それらはαGal抗原非依存性であることを解明した。 2.異種細胞間の貪食反応は、CD47-SIRPαシグナル伝達の不応性のために生ずることを解明した。ブタ細胞上CD47はヒトマクロファージ阻害受容体SIRPαの細胞質内チロシン残基をリン酸化できないため、ヒトマクロファージの非特異的活性が抑制されずブタ細胞は貪食される。すなわちCD47自己認識機構の種特異性を証明した。 3.可溶性ヒトCD47投与によりヒトマクロファージによる異種細胞貪食反応を抑制できることを証明した。ヒトマクロファージとブタ細胞を可溶性ヒトCD47存在下で共培養すると、劇的な貪食抑制を認めた。 4.ヒトCD47を異種細胞に表出させることによりヒトマクロファージによる貪食反応を回避できることを証明した。遺伝子導入によりヒトCD47分子をブタ細胞上に表出させ、ヒトマクロファージと抗体補体非存在下で共培養すると、無処置ブタ細胞・コントロールベクター遺伝子導入ブタ細胞と比べ、劇的な貪食回避を認めた。 以上よりマクロファージ性拒絶反応を制御するにはαGal、ノックアウトブタ、ヒト補体制御因子トランスジェニックブタに加え、ヒトCD47トランスジェニックブタの確立が必要である可能性が示唆された。
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