研究概要 |
【目的】乳房温存手術は本邦でも広く普及しつつあるが、広範な微細石灰化症例や多発腫瘤症例は切除断端癌遺残の危険性から非適応となることが多い。そこで乳管腺葉系をコンピューター支援下に3次元再構築し、一般的に乳房温存手術非適応とされる多発乳癌の発生および進展形態を病理学的に検討した。【材料・方法】同一4分円内に複数の浸潤性腫瘤のある多発乳癌のBt標本を用いた。切除標本は10%メタノール加20%ホルマリンで固定後、電動ハムスライサーで厚さ2mmの連続スライスを作成し、サリチル酸メチル透徹法(Ohtake T, et al. Cancer 76:32-45, 1995)に準じて実体顕微鏡(SZH-131、オリンパス、東京)下に乳管走行の立体的観察を行った。立体的観察を終えた各厚切り標本は、パラフィン包埋後H.E.染色切片にて組織学的な観察を行った。厚切り標本の拡大写真上ですべての乳管断面のマーキングを行い、CCDカメラ(XC-77、SONY、東京)を用いて3次元再構築プログラム(TRI-SRF、ラトックシステムエンジニアリング社、東京)に入力し、乳房内全乳管腺葉系の3次元再構築を行った。2mm厚に全割し3次元再構築プログラムTRI/3D-SRF(RATOC)を用いて画像解析した。【結果】(1)全乳房は乳頭を中心に16個の乳管腺葉系から成り立っていた。(2)末梢方向への分岐が再び合流する乳管吻合は7箇所にみられた(同一腺葉系内4箇所、異腺葉系間3箇所)。(3)乳管吻合により16個中5個(31.3%)の乳管腺葉系は解剖学的に独立していなかった。(4)複数の乳管腺葉系に多発した浸潤性腫瘤は、乳管吻合を介して拡大した広範な乳管内進展によってすべてが連続した病変であった。【結語】各々の乳管腺葉系は乳管吻合を介して必ずしも独立した解剖学的区域ではない。同一4分円内にあるような多発乳癌は乳管吻合を介する広範な乳管内進展を背景にmultifocalな浸潤形態を有するmonoclonalな病変であることが示された。したがってsegmental anatomyに基づく区域切除を行った場合でも乳管内進展による断端癌遺残の危険性が高いと考えられる。【考察】今後は、乳癌の多発性に関わる分子生物学的マーカーを検出し、多発乳癌における乳癌の発生と進展機構の相違をさらに検討することによって、乳房温存手術の適応拡大に関する新しい重要な病理学基礎資料が得られるものと思われる。
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