種々の細菌、ウイルスや自己異型細胞に対応する自然免疫は主に白血球分画中のマクロファージ、樹状細胞、好中球、NK細胞、γδ型T細胞などが担っており、それらの細胞表面上のトールライクレセプター(TLR)により抗原認識の機構が働いているが、ヒトにおけるTLR1〜9の発現は均一ではなく個体差が認められ、それらTLRの発現差異によりTLRリガンドによる刺激に応答するサイトカイン産生に差異が生じることが判明した。これよりTLR発現の個体差が、細菌やウイルス感染細胞、自己異型細胞に対する自然免疫応答の個体差を形成し、感染症や悪性腫瘍に対する病態の経緯を規定していることが推測された。TLRの発現差異は各種抗原刺激に対するサイトカイン産生のみならず、細胞内のシグナル伝達経路を介してMyD88からのシグナルを通してNF-kBが活性化され、Type1インターフェロン、TNFα、IL-6等の炎症性サイトカイン産生を誘導することにより、樹状細胞等におけるNK細胞、γδ型T細胞などへ活性化シグナルを伝達する細胞表面分子の発現増強を誘導する可能性も考えられた。 同時に解析したTCR Vβレパトア比率においてもTmと同様に個体差が確認されたが、今回の検討ではTLR発現とTCR Vβレパトア比率との間に同一個体での相関は明らかとはならず、それぞれ異なる遺伝子制御により規定されていることが示唆された。特にTCR Vβレパトア比率の個体差は特異抗原に対する獲得免疫応答を規定する要因となることが推測された。 今後、癌患者や外科手術後感染症発症患者におけるTLR発現およびTCR Vβレパトアを解析し、個々のサイトカイン産生能とMyD88、TRAF6、NF-kBの遺伝子解析を併せて評価することが新たな治療戦略の開拓に重要と考えられる。
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