家族性乳癌の原因遺伝子であるBRCA1は細胞周期制御およびDNA修復を司る癌抑制遺伝子である。乳癌発症の浸透率が80%と高率なことから、遺伝子産物であるBRCA1蛋白質が乳癌抑制に重要な役割を果たしていることは明らかであり、その発現あるいは機能に影響を与える因子は、散発性乳癌の発症、増悪に関与する可能性を持つ。研究者らはBRCA1の発現は蛋白質レベルでも制御されていることを発見した。本研究ではBRCA1のカスケードにかかわる因子が、散発性乳癌のバイオマーカーとなりうるかどうかを検討中である。BRCA1はBARD1とともにRINGヘテロダイマー型のユビキチンリガーゼ(E3)を形成して安定化するが、研究者らはその上流と下流のカスケードを明らかにした。上流としてはCDK2-Cyclin EによってBRCA1は蛋白質分解を受け、ユビキチンリガーゼ活性は消失する。下流としてはBRCA1がNucleophosmin(NPM)のユビキチン化を通して中心体複製を制御していることが示唆された。これらのin vitroの結果を裏付けるように30例の原発性乳癌組織を用いた免疫組織染色にてCyclin Eの発現とBRCA1の発現が逆相関する結果を得た。乳癌においてCyclin Eの過剰発現と不良予後が強く相関することが報告されているが、上記結果からその原因としてBRCA1の活性および蛋白質発現が抑制され、中心体の過剰分裂、Aneuploidyをきたすことが考えられる。現在、さらに症例を重ね、またBARD1やNPMを含め、新しいin vitroの知見から得られた他の因子との相関を解析中である。
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