研究概要 |
乳癌および卵巣癌の癌抑制遺伝子産物であるBRCA1は複数の細胞内経路を統括制御するハブ蛋白質であり、その機能異常は散発性乳癌の発症、増悪にも重要である。本研究ではBRCA1ユビキチンリガーゼ活性のカスケードにかかわる因子が、散発性乳癌のバイオマーカーとなりうるかどうかを解析した。17年度はBRCA1の基質として我々が同定したRNAポリメラーゼのサブユニットであるRPB8、および紡錘体に局在し卵巣癌との関連が報告されているSPINを中心に解析した。RPB8はin vivo, in vitroにてBRCA1-BARD1によってポリユビキチン化され、このユビキチン化部位を同定するためにRPB8のLys-Arg変異体を作成した。5カ所のLysをArgに変異させたRPB8はBRCA1-BARD1によってユビキチン化されなくなった。このユビキチン化されないRPB8の変異体を安定的に発現する細胞株はDNA傷害に対する感受性が亢進しており、BRCA1欠失と同様な表現型を示した。5カ所のLys残基のうち2カ所は人において1塩基多型(SNP)が認められ、この多型と乳癌および卵巣癌発症、さらにDNA傷害を生じるアントラサイクリン系の抗癌剤の感受性との関連に興味が持たれた。これらの結果の一部を現在投稿中である。SPINに関しては内因性および過剰発現系にてBRCA1の結合を確認した。さらにin vivoにおいてSPINはBRCA1-BARD1依存性にポリユビキチン化された。BRCA1ユビキチンリガーゼ活性のカスケードに存在する蛋白質の異常が散発性乳癌の原因、さらに抗癌剤感受性に影響する因子として重要と考えられた。RPB8,SPINともに抗体を作成し、原発性乳癌における発現を免疫組織学的に解析したが、現在のところ良好な条件が得られていない。
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