研究概要 |
乳癌および卵巣癌の癌抑制遺伝子産物であるBRCA1は複数の細胞内経路を統括制御するハブ蛋白質であり、その機能異常は散発性乳癌の発症、増悪にも重要である。本研究ではBRCA1ユビキチンリガーゼ活性のカスケードにかかわる因子が、散発性乳癌のバイオマーカーとなりうるかどうかを解析した。16年度はBRCA1-BARD1の上流として,CDK2-Cyclin EによるBRCA1の抑制に焦点をあてて解析した。CDK2-Cyclin EによってBRCA1は蛋白質分解を受け、ユビキチンリガーゼ活性が消失したことから、原発性乳癌組織を用いた免疫組織染色をおこない、Cyclin Eの発現とBRCA1の発現が逆相関する結果を得た。17年度はBRCA1の基質として我々が同定したRNAポリメラーゼのサブユニットであるRPB8、および紡錘体に局在し卵巣癌との関連が報告されているSPINを中心に解析した。RPB8はin vivo, in vitroにてBRCA1-BARD1によってポリユビキチン化され、このユビキチン化はRPB8の5カ所のLysをArgに変異させることによって消失した。このユビキチン化されないRPB8の変異体を安定的に発現する細胞株はDNA傷害に対する感受性が元進しており、BRCA1欠失と同様な表現型を示した。5カ所のLys残基のうち2カ所は人において1塩基多型(SNP)が認められ、この多型と乳癌および卵巣癌発症、さらにDNA傷害を生じるナントラサイクリン系の抗癌剤の感受性との関連に興味が持たれた。これらの結果の一部を現在投稿中である。SPINに関しては内因性および過剰発現系にてBRCA1の結合を確認、in vivoにおいてBRCA1-BARD1依存性にポリユビキチン化された。RPB8,SPINともに抗体を作成し、原発性乳癌における発現を免疫組織学的に解析したが、現在のところ良好な条件が得られていない。
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