研究概要 |
G蛋白質共役型受容体は、7回膜貫通型の受容体で、細胞質内でG蛋白とcouplingして、増殖、運動、抗アポトーシスなどに関するシグナルを核へ伝達する作用を有することが知られている。今回、我々は、すでに膵癌組織内での過剰発現が確認さているアンギオテンシンII(Ang II)と腫瘍トリプシン、さらにはリゾホスファチジン酸(LPA)などの分子群にも注目し、それぞれの特異的受容体(AT1,PAR-2および(EDG)-2,-4)を介した膵癌細胞における細胞内シグナル伝達系について検討した。さらにこれらシグナルを介した刺激伝達の膵癌病理組織に及ぼす影響についても検討した。得られた結果は以下のように要約される。AT1、PAR-2およびEDG-2,-4受容体蛋白は、検索したすべての膵癌細胞株で発現しているのが確認された。そして、AngIIとトリプシンはそれぞれの受容体を介して膵癌細胞の増殖を濃度依存性に促進させた。また、ERK1/2やNF-κ8を活性化することで、膵癌細胞増殖を促進し、抗癌剤抵抗性を増強することが示された。さらに、腫瘍トリプシンの発現のないPanc-1にcationic typeのtrypsinogenを遺伝子導入しところ、遺伝子導入された細胞ではその増殖や運動・浸潤能が亢進した。すなわち、腫瘍から分泌され、その後活性化されたトリプシンがPAR-2を介して膵癌細胞の増殖と運動・浸潤能を亢進したものと考えられた。一方、膵癌細胞株では、LPA刺激に対し、その濃度が1μM濃度までは、膵癌細胞の有意な増殖効果は認められなかった,さらには、ERK1/2の明らかなリン酸化も確認できなかった。この結果は、Ang IIやトリプシンがnMレベルでシグナル伝達がおこなわれたのと対照的であった。最後に、ヒト膵癌組織(外科切除標本)におけるトリプシン、PAR-2およびAT1発現と組織内Ang II濃度(手術時に採取)の関係を検討した。その結果、膵癌細胞でのトリプシンおよびPAR-2発現の強い症例ほど膵癌組織内の間質の線維化の程度が強く、また、組織内アンギオテンシンII濃度も高いという傾向が認められた。このAng IIは、RAS非依存性にトリプシンによって直接アンギオテンシノーゲンから直接産生されることより、膵癌細胞から産生されるトリプシンおよびそのトリプシンによって産生されるAng IIは、それぞれの特異的受容体を介して、膵癌細胞の生存と抗アポトーシス能だけでなく、膵星細胞や線維牙細胞(いずれの細胞もPAR-2とAT1受容体の発現がある)にもパラクライン的に作用して膵癌間質の線維増生(fibrogenesis)に深く関与していることが推察された
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