研究概要 |
インターロイキン12(IL-12)は生体内での免疫現象、特に1型獲得免疫における開始シグナルであることが認められており,このIL-12と同じく主に単球・マクロファージから分泌される顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)はIL-12の産生を抑制することが知られている。SDラットを用いたハプテン(TNBS)誘導性腸炎は炎症性腸疾患のうちでクローン病の実験モデルとして確立されている。我々は、リコンビナントG-CSF前処置により、大腸病変組織における全層性のリンパ球浸潤と壁肥厚およびインターフェロンγ産生(1型免疫)を病態とするクローン病様の腸炎発症が予防されることを示した。次いで、ラットの系統(SD、DA、Lewis、F344、BN)の違いによって内因性G-CSFの産生性が有意に異なることを発見し、同一のハプテン刺激への生体反応としての大腸炎であるにもかかわらず、内因性G-CSFの低い系統(SD、DA)では上記のクローン病様の腸炎が発症し、内因性G-CSFの高い系統(Lewis、F344、BN)では粘膜に限局した好中球主体の潰瘍性大腸炎様の腸炎が発症することを示した。リコンビナントG-CSFを用いた前処置はクローン病様病変の発症および体重減少、死亡率を有意に改善した。これに対して、G-CSFが好中球分化促進および動員作用を示すにもかかわらず、潰瘍性大腸炎様病変の増悪は認められず炎症部位でのTNFα産生はむしろ制御されていた。炎症性腸疾患臨床症例の手術標本を用いた調査についてはサンプル数が充分でなく当該研究期間では解析に至らなかったが、動物実験の結果から、IL-12とG-CSFの産生比、あるいはリンパ球と好中球のバランス異常の点からヒトの炎症性腸疾患の病態が説明される可能性が強く示唆された。G-CSFをベースとした融合蛋白作成による抗炎症薬開発の研究については、合成したG-CSFとIL-10融合蛋白のin vitro実験ではサイトカイン単体(G-CSFあるいはIL-10)の抗炎症作用を凌駕する融合蛋白の合成には当該研究期間においては至らなかった。In vivo実験による生体内半減期延長に関する実験は蛋白合成量が当該研究規模では達成できず結果を得るに至らなかった。しかしながら、合成融合蛋白が、抗炎症作用は強力であるが半減期が極度に短いサイトカインであるIL-10の弱点を克服する可能性は充分に残されていると考える。
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