ラット肝細胞癌株(Morris hepatoma)をラット肝臓に移植することによって、自然経過で肺転移を来たし死亡するラット肝細胞癌モデルに対して肝移植を行い、術後FK506を1週間皮下投与すると、肝移植を行わない自然経過群と同様に肺転移をきたして死亡することが確認された。これにより、ラット肝細胞癌肝移植モデルの確立ができたといえる。このラット肝細胞癌肝移植モデルに対し、全例FK506を1週間皮下投与し、Rock阻害剤投与群(経口で2週間投与)、非投与群に分け、生存日数及び死亡時の転移巣を確認した。結果は、FK506単独投与群に比べRock阻害剤併用投与群で生存日数の有意な延長を認めた。また、FK506単独投与群で死亡時に転移を認めたのに対し、Rock阻害剤併用投与群では転移も認めなかった。この結果により、肝細胞癌に対する肝移植においてRock阻害剤が肝癌再発を抑制しうることをin vivoにおいて証明できたといえる。 In vitroでの癌浸潤能の解析は、Morris、NIH3T3を使用し、migration assayを行った。Rho kinase(Rock)のリガンドであるLPA投与によるこれらの細胞のmigration能の亢進、Rock阻害剤投与によるmigration能の抑制を確認した。免疫抑制剤(FK506)の投与により、これらの細胞のmigration能がLPA同様に亢進し、FK506投与によって亢進したmigration能がRock阻害剤投与で抑制された。さらに、Morrisを用いてRockの標的因子であるミオシン軽鎖(MLC)のリン酸化レベルを解析した。FK506投与によりMLCのリン酸化レベルが増加し、Rock阻害剤併用投与によりそのリン酸化レベルが減少した。 これらの結果により、免疫抑制剤が癌細胞のmigration能を亢進すること、さらにその亢進したmigration能がRock阻害剤投与により抑制されることを証明できたといえる。
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