研究概要 |
胃癌細胞株,膵癌細胞株,乳癌細胞株,大腸癌細胞株,26種類の細胞株について浸潤能と遊走能について測定し,それらをコントロールとして,癌細胞株と間質系細胞株(THP-1)の共培養における癌細胞株の浸潤能および遊走能と比較した。そのうち12種の細胞株において共培養系において浸潤能の亢進,16細胞株において遊走能の亢進が観察された。浸潤能の亢進を認めた癌細胞株と共培養した間質系細胞株のMMP-9の発現解析を行ったところ,少なくとも5種類細胞株と共培養を行った間質系細胞株においてMMP-9の発現亢進を認めた。このMMP-9発現亢進を促進する因子としてRANTESが文献上で考えられており,今回の検討でも共培養系において間質系細胞株のRANTES産生が亢進し,自らMMP-9の発現誘導を促進している可能性が示唆されている。したがって癌細胞は癌周囲の組織に働きかけながら浸潤能を獲得している可能性が示唆された。そこで,我々は共培養系での癌細胞の浸潤能獲得のひとつの鍵となるケモカインであるRANTESの抗体を共培養系に添加したところ,癌細胞の浸潤獲得能は約半分まで抑制されることが示された。この結果から,癌細胞の浸潤能獲得過程においてRANTESは重要なケモカインであると考えられると同時に,完全抑制されなかったことから,他の因子の存在も考慮するする必要があると考えられた。 また,共培養系では間質系細胞株のVEGF-Aの発現亢進も観察された。臨床検体での検討では,間質でのVEGF-A発現は予後良好とする報告と予後不良とする報告があり,臓器によって結論は異なっている。そこで,その予後の違いの原因のとして我々はVEGF-Aのスプライスバリアントに着目し,今後それぞれのバリアントのポピュレーションの違いについて解析を進める予定である。
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