研究概要 |
胃癌,大腸癌,膵癌細胞株とマクロファージ系細胞株の共培養の系で癌細胞の遊走能・浸潤能ともに上昇を認めた。その現象を解明するために、胃癌細胞を用い、マイクロアレイ法による遺伝子発現解析や文献的検索から予測される因子を選定して解析を行ったところ、RANTESの他にHGF、LTB、PGE1などの関与が予測された。HGFはc-metに結合し、細胞の遊走能を上昇させているものと考えられ、さらにLTBは間質細胞の遊走因子であることから、生体内では腫瘍細胞と間質細胞の相互関係をより増強することが予測される。PGE1はMMP-2の発現を誘導することが報告されていることから、癌細胞の浸潤能獲得においてきわめて重要な役割を担っているものと思われる。共培養系において、間質細胞のMMP-9の発現上昇のほか、MMP-2とVEGFの発現上昇も認められた。MMP-2,9ともに癌細胞の浸潤を促進するものと考えられる。VEGFの発現上昇は、血管新生を促すことが考えられるが、大腸癌患者において間質細胞でのVEGF発現が陽性な場合は予後が良いとの報告もある。そこで、VEGFのスプラインバリアントの発現を検討したところ、血管新生作用を有するVEGF165の他に、血管新生を抑制する機能をもつVEGF165bの発現も確認され、癌細胞との相互関係によって、その発現が制御されているもとのと考えられた。 癌細胞と間質細胞の相互関係は、in vitroの実験系においては癌の浸潤に正に働くことが多いように思われたが、実際の生体の中では、免疫反応などを考慮しなくてはいけないので、間質反応が癌の進展にどのように関わっているかについては、臨床検体を用いた研究が今後必要になってくるものと思われた。
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