研究概要 |
【目的】臨床消化器癌症例におけるRECK遺伝子発現の有無、程度を解析し、またMMP-9発現をも併せて評価(RECK/MMP-9 balance)することにより癌の悪性度を客観的に把握し得るか否かを検討した。 【方法】(1)大腸癌症例より得られた凍結切片を用いて癌部、非癌部よりRNAを抽出し、Nothern Blot Hybridizationを行い、NIH imageにより発現強度を定量化した。(2)免疫組織化学染色(ABC法)によりRECKおよびMMP-9蛋白の発現率、部位、強度を観察した。染色強度、染色面積を評価し、overall scoreを算定した。(3)活性型MMP-9の癌部での発現を観察するため、gelatin zymographyを行った。(4)データ解析:mRNAレベル、蛋白レベルでの癌部、非癌部におけるRECK score、MMP-9 scoreと各種臨床病理学的因子との相関を解析した。また活性型MMP-9とRECK score, MMP-9 scoreとの相関、さらに、RECK/MMP-9値と各種臨床病理学的因子との相関を単変量、多変量解析し、予後との関連を評価した。(5)癌部におけるVEGFの発現、および抗CD34抗体を用いてmicro vessel density(MVD)を免疫組織染色にて評価し、RECK発現と血管新生との関連を検討した。 【結果】癌部では非癌部に比べ、RECK mRNA発現が低下していた。RECK蛋白発現は、組織型、リンパ節転移、Dukes' stage、脈管侵襲との相関が認められた。無再発生存率は、RECK陽性例は陰性例に比べ、有意に再発率が低かった(p=0.011)。RECKとMMP-9の発現を併せて評価したところ、RECKを優位に発現している症例(RECK≧MMP-9)では、その他の症例に比べ、有意に再発率が低く(p=0.0003)、多変量解析でも独立した予後因子となった(p=0.0122)。Gelatin zymographyによる活性型MMP-9とRECK発現との間には相関を認めなかった。RECKとVEGFの発現には負の相関が見られ(p=0.0037)、RECKとMVDにも負の相関関係が認められた(p=0.006)。 【総括】RECKは大腸癌においてその発現が低下しており、大腸癌の予後を強く規定する因子であることが明らかとなった。またRECKとMMP-9発現のバランスを評価することにより、大腸癌の悪性度を把握できることが示された。その機序として、RECKは腫瘍の血管新生を抑制していることが、示唆された。
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