研究概要 |
膵癌に対する根治可能な唯一の治療法は手術であるが、早期発見が困難であるため、発症時には遠隔転移などのため、切除不能例が多い。また、たとえ切除が可能であっても、進行症例が多いため、膵癌切除後の再発率は高く、それに加え、再発膵癌の進行も速いため、切除例であっても長期予後を期待するのは困難である。このような現状を改善するためには、有効な化学療法の開発が急務ではあるが、いまだ満足できる有効な化学療法は開発されていない。しかし、膵癌細胞そのものは必ずしも抗癌剤に抵抗性を有しているわけではなく、膵という特殊環境に存在することが、抗癌剤に対する抵抗性を獲得させていると考えた。膵癌は造影CT検査など、種々の画像検査では乏血性であり、腫瘍局所はかなりの低酸素状態であることが判明している。 5%の酸素濃度下で、ヒト膵癌株化腫瘍を37℃で98時間培養し、Gemcitabine、5-FU、CDDPのIC50を測定した。Gemcitabineの感受性はnormoxiaではMiaPaCa2が30.5±1.5ng/ml、PANC1が890.3±78.0ng/mlであったのが、5%低酸素下はMiaPaCa2が72.1±12.1ng/ml(P=0.03)、PANC1が5884.4±4590.0ng/ml(P=0.0006)と有意に上昇し、抗癌剤に耐性を示した。しかし、CDDPと5-FUでは感受性の変化がみられなかった。そこで、網羅的遺伝子解析を施行し、HIFの関与を証明できなかった。しかし、膵癌細胞株でnormoxiaとhypoxiaで5倍以上発現が増加した遺伝子群には、hypoxia-inducible protein 2,CXCR4,angiopoietin-like 4,endothelin2,placental growth factor, cascular endothelial growth factor-related proteinなどの血管新生や低酸素関連遺伝子が多く含まれ、この中から新たな分子標的薬が創薬される可能性がある。
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