研究概要 |
胃癌をはじめとする消化器癌細胞が浸潤転移する際、癌細胞周囲の細胞外マトリックスが破壊され、同時に腫瘍の増殖に伴い、血管新生が認められる。これまで癌の浸潤転移を制御することを目的に、マトリックス分解酵素阻害剤を用いた転移抑制作用について、動物モデルを用いた検討を行ってきた。柑橘系フラボノイド、ノビレチンにはMMP阻害作用が知られている。ノビレチンが抗転移治療薬となりうるかどうかについて検討した。 【目的】>各種フラボノイドの生理的活性が明らかになり、その薬理効果について関心が高まっている。沖縄産シークワーサーから抽出された柑橘系フラボノイドであるノビレチンを用い、その薬理効果のうち、MMP発現、細胞増殖、apoptosis誘導、細胞周期に及ぼす影響について検討した。 【方法】ノビレチンのMMP抑制効果を確認する自的で、胃癌細胞株TMK-1とマウス線維芽細胞株の共培養上清を用いて、gelatin zymographyを行った。抗腫瘍効果はin vitroの系を用いて、各種ヒト胃癌株(TMK-1,MKN-45,MKN-74,KATO-III)を用い、MTT assayによる判定を行った。また、ノビレチンによる増殖抑制の機序を検討するため、TUNEL法により、apoptosis誘導の有無を確認した。さらにフラボノイドの生理的機能のひとつである細胞周期に及ぼす影響を観察するため、flow cytometry法と用いたDNA histogramによる検討を行った。In vivoの系として、TMK-1によるSCIDマウス腹膜播種モデルを作成した。TMK-1投与後1週目にノビレチンをマウス背部皮下より浸透圧ポンプを用いて持続投与し、3週目にマウスを犠死させ、腹膜播種結節の総重量を計測した。なお、ノビレチンは東京薬科大学薬学部第一生化学教室伊東晃教授より供与を受けた。 【結果と考察】胃癌細胞株TMK-1とマウス線維芽細胞株の共培養上清を用いたgelatin zymographyの結果では、proMMP-9産生はノビレチンにより濃度依存的に抑制された。In vitroにおいて、ノビレチンは4種の胃癌株の増殖を濃度依存的に抑制し、その機序の一つとしてアポトーシス誘導が認められた。また、flow cytometry法によって、ノビレチン投与24時間後においてG1 blockを認めた。以上より、ノビレチンは細胞増殖抑制効果およびMMP-9産生阻害を介して、ヒト胃癌株の腹膜播種形成を抑制すると推測された。これらの結果を踏まえ、さらにSCIDマウス腹膜転移モデルを用いて、既存の抗がん剤との併用効果、腫瘍抑制効果の検証を行う予定である。消化器進行癌における集学的治療法の選択肢の1つに、さまざまな生理活性をもつ柑橘系フラボノイドを用いた薬物療法が入りうる可能性が示された。
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