研究概要 |
本研究では、腫瘍から最初に直接のリンパ流が到達する見張りリンパ節(Sentinel node,以下SN)に形成される微小転移を制御する新しい手法を開発することを目的とする。 1.抗癌剤(パクリタキセル,PTX)封入水溶性MPCポリマーの作製と薬物動態解析 細胞膜構造に類似した特殊なポリマーに難水溶性抗癌剤であるパクリタキセル(PTX)を内包し、ラット盲腸粘膜下層に局所注入した群(SM群)及び尾静脈から静注した群(IV群)の2群問でSNにおけるPTX濃度を比較した(n=5)。SM群のSN内PTX濃度は投与6時間後においてIV群の約9倍と有意に高値を示した(p<0.05)。さらにSM群では投与24時間後においてもSN内PTX濃度は保持された。 2.PTX封入水溶性MPCポリマー、局所注入による病理組織学的変化の検討 PTX封入水溶性MPCポリマー局所注入部位(ラット盲腸粘膜下)、SNを含む所属リンパ節における組織学的変化を経時的に観察したが、軽度の炎症所見のみで、壊死穿孔などの局所の有害事象は認めなかった。 3.PTX封入水溶性MPCポリマー用いたラット腸間膜SN微小転移制御実験 Wistar系ラット盲腸壁にDonryuラット由来腹水浮遊肝癌細胞株AHI30を注入し、SNに微小転移を形成せしめ、腫瘍注入部粘膜下にPTX封入水溶性MPCポリマーを投与し(SM群)、SNにおける転移形成状況をポリマー尾静脈投与群(IV群)と比較した。SM群ではIV群より有意にSNおよびその他の流域LN重量が低値を示した(p<0.05)。また投与4週後においてSM群ではIV群より有意に高い生存率を示した(pく0,05)。 難水溶性抗癌剤を高濃度内包可能な本ポリマーは局所注入群においてSNへの移行性・停滞性に優れており、経静脈的全身投与群に比して高いSN集積性が観察された。さらにSN及び同リンパ流域LNにおける有意な腫瘍発育抑制効果が認められ、SNを標的とした新しい局所化学療法への応用が期待される。
|