改変型アデノウイルスの有用性を検討するために、Green Fluorescence ProteinをE1領域に組み込み、ファイバー・ノブ構造のみを血清型の異なるタイプ11型あるいは35型に置換し、その他の基本構築はタイプ5型のままのアデノウイルスを作製した。このウイルスを用いて、タイプ5型の主な受容体であるCoxsackievirus and Adenovirus Receptorの発現が低下している消化器扁平上皮癌細胞を用いて、それぞれのアデノウイルスの感染効率を検討した。その結果、タイプ35型のファイバー・ノブ構造を有する改変型アデノウイルスは、プロトタイプの5型あるいは11型の改変型ウイルスより、標的細胞に効率的に遺伝子導入が可能であった。そこで、腫瘍融解性ウイルスに用いる転写調節領域を決定するために、細胞増殖に発現の相関を示すサバイビン遺伝子のゲノム領域を用いて、当該細胞でルシフェラーゼアッセイを行なったところ、転写開始点約500塩基対上流に、強い転写調節領域が存在することが判明した。そこで、次に腫瘍融解性ウイルスの作製法を容易にするための基本ベクター系を構築した。すなわち、この基本ベクターは転写調節領域の下流にアデノウイルスの初期応答遺伝子E1AとE1Bを連結させ、それを全アデノウイルスの塩基配列を含むベクターに、特定の制限酵素部位を利用して組み入れ、1本のプラスミドにしようとするものである。このプラスミドDNAをウイルス産生細胞である293細胞に遺伝子導入するだけで、容易にアデノウイルスの産生が可能となるはずである。
|