研究課題
当施設の生命倫理委員会において受理され、遺伝子発現解析に関して同意を得た肺癌切除52症例を対象として、肺癌リンパ節転移および術後再発転移予測診断法の確立を試みた。具体的には肺癌切除標本の腫瘍組織および隣接した正常肺組織からtotal RNAを抽出し、10000種類の遺伝子を搭載したオリゴアレイを用いて遺伝子解析を行なった。遺伝子発現解析の結果、リンパ節転移に関連する遺伝子として23遺伝子、術後再発転移に関連する遺伝子として別に23遺伝子が抽出された。これらの遺伝子発現量の重み付けを行い、最適な遺伝子群を決定するために統計学的解析を行なった。これらの遺伝子群を用いた前向き試験による解析では、リンパ節転移判別率は75%、術後再発転移判別率は75%であった。生存分析では、術後再発高リスク群は低リスク群に比べ、有意に予後が悪かった(p-0.0111)。原発性肺癌のリンパ節転移、術後再発の判別に関連した特徴的な遺伝子を抽出することが可能であった。これらの抽出された遺伝子は肺癌の新たな病型診断に関連する因子を含むことが示唆された。また、Inhibitor of the apoptosis protein (IAP) familyのひとつであるsurvivinは、非小細胞肺癌における発現が様々な方法を用いて検討され、survivin高発現群では予後不良であり、かつ化学療法および放射線療法に抵抗性を示すことが報告されている。我々は、anti-apoptosis geneであるsurvivinおよびlivinの発現に関し、非小細胞肺癌患者54名の手術摘出標本から腫瘍および正常肺組織におけるこれらの遺伝子発現を、quantitative real-time PCRを用いて検討した。結果として、survivin、livinともに腫瘍部位では正常部位と比較し、優位に高発現であった。特にsurvivinは正常肺組織での発現はほとんど見られなかった。組織型では、survivinは腺癌で高発現を示すものが多く、livinは非腺癌で高発現を示すものが多く認められた。quantitative real-time PCRによって定量した遺伝子発現解析の結果により、これらの遺伝子の発現に関し高発現群と低発現群の2群に分け、その無再発生存期間を比較検討したところ、高発現群で予後不良な傾向が認められた。解析結果に関しては2005年American Association for Cancer Researchの96th Annual Meeting、日本胸部外科学会定期学術集会、日本肺癌学会総会、日本外科学会総会にて発表した。