研究概要 |
1.原発性肺癌切除標本において腫瘍組織を抗Rad9抗体で免疫染色し,腫瘍細胞の核内に限局した強発現例がみられることを確認した.さらに本pathwayにおいてRad9の下流に存在するChk1の活性が高まっていることも明らかとなった。この結果はRad9の発現が肺癌細胞の生物学特性に何らかの意義をもつ可能性を示すものと考えた。この研究結果は,この蛋白質の発現が肺癌細胞の生存にとって有利に働くのか,不利に働くのか、つまりoncogeneか否かという疑問を想起させ、それを明らかにするために次の研究を行った。 2.癌細胞中で発現しているRad9蛋白質に機能不全が生じていないかを調べるため、同遺伝子の変異の有無を調べた。点突然変異などの異常は一切生じておらず、またこの遺伝子のmRNAの定量においても機能的レベルでの発現が確かめられた。以上のことより癌細胞内のRad9は遺伝子、mRNAおよび蛋白質の全てのステップにおいて機能していることが確認された。 遺伝子の不安定性は癌細胞の特徴であるが、それによってDNAに高度の損傷を生じるようであれば、癌細胞さえもはや生存できなくなり、分裂期における細胞崩壊(mitotic catastrophe)により死滅すると考えられる。Rad9はこのような癌細胞の崩壊を回避するために機能しており、結果として癌細胞の生存を保証しているのではないかと考えられた。 3.Rad9の癌細胞での機能を確認するため、肺癌細胞に対してこの蛋白質のRNA interferenceによるknock downを行った。その結果、癌細胞の増殖は著明に抑制され、上記の仮説が裏付けられた。 4.2.の検討のなかで、同遺伝子に後天的変異が認められなかった一方で、特定のnonsynonymous SNPが、肺腺癌患者において高頻度に認められた。
|