研究概要 |
脳死ドナーが少ない日本において、生体部分肺移植は重要な治療方法である。これは、二人の健康なドナーが、それぞれの右下葉あるいは左下葉を提供し、レシピエントの右肺および左肺として移植する術式である。移植される肺が小さいため、体格の大きな大人、特に男性がレシピエントであると、相対的に移植肺が小さくなりすぎて、肺高血圧症、肺水腫を起こすと考えられる。そこで、われわれは、新しい術式"Unilateral double lobar lung transplantation, UDLLT"を考案し、犬を使ってその術式を確立した。この方法は、レシピエントの右肺摘出し、そこへ、ドナーの左下葉と右下葉を移植する方法である。犬を使った6回の移植実験はすべて成功し、良好な急性期呼吸機能を示した。 臨床応用をめざして、平成16年度から17年度前半に行った慢性期実験では、9回の移植実験で6例が長期生存し、良好な肺機能および気管支吻合部治癒が得られた。一方、3例は翻転して移植した左下葉グラフトにキンキングを生じ、肺うっ血をきたし、さらに気管支吻合部解離で死亡した。つまり、新しい術式UDLLTは、長期的生存という点から、左下葉を右上葉として翻転して移植するという非解剖学的吻合部に欠点があることがわかった(Aokage K, et al. Euro J Cardio Thor Surg 29,40-4,2006)。そこで、17年度後半は、レシピエントの両側下葉を摘出して、ドナーの両側下葉を解剖学的位置に移植する、さらに新しい術式"Bilateral native lung sparing lobar transplantation, BNLSLT"を開発して、急性期および慢性期実験をおこなった。急性期実験では6例とも良好な呼吸機能を示し、慢性期実験でも、6例中5例が、合併症なく生存した。
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