肺腫瘍に対して実臨床に於いてこれまで120例以上の症例に凍結療法を行ってきた。その臨床成績はJ Thorac Cardiovasc Surgにacceptされ2006年掲載予定である。本治療は局所制御力が80%と肺部分切除と遜色ないにもかかわらず、局所麻酔下に施行可能であるため術後在院日数が2.6日と低侵襲であることが特徴である。しかし肺実質を凍結するため近接臓器の冷却を避けることができない。本治療を希望しながら腫瘍の占拠部位が食道や心臓に近接するために適応とならなかった症例は少なくない。そこで本研究では特に低温環境により重篤な合併症を危惧される食道と冠動脈について豚を用いて基礎的実験を行った。 全身麻酔下に豚を開胸し、臨床に用いているものと同じ凍結端子を直接食道に当てて食道壁を冷却した。食堂壁は薄いため容易に全層が凍結し壊死に陥った。生存実験を行えば数日後に食道穿孔が発生する状態である。そこで胃管を挿入し胃内に向けて45℃の温生食を300mlゆっくり注入し、胃が張った状態でこれを吸引する操作(この間ほぼ1分)を食道を冷やしている間中繰り返した。食道内壁の温度は無処置では-130℃であったものが、この操作により9℃に保たれた。次に冠動脈の低温による血流の変化を電磁流量計を用いて測定した。現時点では冠動脈の直接凍結のみを実験的に行っているため、凍結により冠動脈は血流が途絶する。しかし凍結を終了すると血流は再開し電磁流量計で計測する限り凍結前の血流量と同じ血流量が得られている。冠動脈の凍結による長期的変化は今後検討する。
|