肺腫瘍に対して実臨床に於いてこれまで150例以上の症例に凍結療法を行ってきた。その臨床成績の一部はJ Thorac Cardiovasc Surg2006;131:1007-13に報告した。本治療は局所制御力が80%と肺部分切除と遜色ないにもかかわらず、局所麻酔下に施行可能であるため術後在院日数が2.6日と低侵襲であることが特徴である。しかし肺実質を凍結するため近接臓器の冷却を避けることができない。本治療を希望しながら腫瘍の占拠部位が食道や心臓に近接するために適応とならなかった症例は少なくない。そこで本研究では特に低温環境により、重篤な合併症を危惧される食道と冠動脈について豚を用いて基礎的実験を行った。 全身麻酔下に豚を開胸し、臨床に用いているものと同じ凍結端子を直接食道に当てて食道壁を冷却した。食道壁は薄いため容易に全局が凍結し壊死に陥った。生存実験を行えば数日後に食道穿孔が発生する状態である。そこで胃管をいため容易に全層が凍結し壊死に陥った。生存実験を行えば数日後に食堂穿孔が発生する状態である。そこで胃管を挿入し胃内に向けて45度の温生食を300mlゆっくり注入し、胃が張った状態でこれを吸引する操作(この間ほぼ1分)を食道を冷やしている間中繰り返した。食道内壁の温度は無処置では-130℃であったものが、この操作により9℃に保たれ、組織学的な変化は生じなかった。この方法を用いれば臨床的にも食道近傍の肺転移巣に対し凍結療法が可能であることが示唆された。次に冠動脈の低温による影響を豚を用いて観察した。心膜こ接する肺を凍結すると心膜も凍結するが、心臓は心蓑液を介して心膜と直接接することなく激しく運動しているため心筋が凍結することはなかった。したがって冠動脈周囲の温度は0℃以下にはならないことが示され、またその条件下では電磁流量計を用いて測定したところ冠動脈血流量は変化しなかった。
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