研究概要 |
心筋細胞に特異的に発現し、収縮に伴う機械的ストレスから細胞膜を保護する働きを有するDystrophinに着目し、虚血や再潅流に伴う心筋細胞死の特徴である収縮帯壊死の成因解明とその予防を目的として研究を行った。Dystrophinは虚血中に細胞膜から細胞骨格分画に移動し、さらに再潅流時には分解され消失した。細胞膜をdigitoninによって透過性にし、低濃度(2mM)のATPで心臓を潅流するとDystrophinは細胞膜から細胞骨格分画に移行したことからDystrophinの局在変化には細胞内ATPの減少が関与していると考えられた。この変化は同様な働きをする他の膜タンパクや細胞骨格タンパクにはみられず、Dystrophinに特徴的な生化学的変化と考えられた。再潅流時にEvans blue色素を用いて同定した細胞壊死は細胞膜Dystrophinが消失した心筋細胞において認められた。一方心筋壊死は再潅流時に心筋収縮抑制剤2,3-butanedione monoxime (BDM)を用いることによって抑制されたが、BDM除去後収縮再開によって細胞膜Dystrophinが消失した心筋細胞においてEvans blueの取り込みがみられた。次に、再潅流障害を抑制することが知られているischemic preconditioning (IPC)を行うと再潅流時にミトコンドリアの機能温存と心筋ATPの増加に伴ってDystrophinの細胞膜への再分布が認められ、心筋壊死は有意に抑制された。また、IPC施行心において再潅流時BDMを用いて一過性に収縮を抑制するとIPCの心筋保護効果はさらに増強された。以上の結果から、細胞膜Dystrophinの消失は再潅流障害の成因として重要であり、ミトコンドリアの機能温存をもたらす心筋保護的処置と再潅流時に一過性収縮抑制を併用することによって再潅流障害が著明に軽減されることが示唆された。
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