今年度は、言語野近傍の脳腫瘍症例を対象として、1)術前にf-PET、f-MRI、脳磁図を用いて非侵襲的言語機能局在マッピングを行い、2)そのマッピングデータを手術ナビゲーションシステムに取り込み、モニター画面上に機能局在を3次元画像表示する方法の確立を目指した。言語タスクとしては主にverb generation taskを用いた。 脳機能マッピングのデータは種々の測定機器により取得され、スキャンのスライス幅や方向も異なる。従って、測定機器の種類を問わず、脳機能マッピングのデータセットとMRI画像のデータセットを手術ナビゲーションシステムへ個別に取り込み、イメージ合成を行う特別なソフトウエアが必要である。本研究では新たに開発されたBrainLAB社のイメージ合成ソフトウエアを用いることにより、脳機能マッピング画像の手術ナビゲーションシステムへの取り込みが可能になった。 実際の臨床例は5例であり、うち4例は右利きで、左前頭葉Broca野近傍に腫瘍が局在していたが言語障害は呈していなかった。残りの1例は左利きであり、右前頭葉に腫瘍が存在し、術前から運動性失語を呈していた。右利き4例全例において、左下前頭回ないし中前頭回にBroca野と推定される賦活領域が認められた。左利きの1例は術前から言語障害の程度が強く、言語賦活領域の同定は困難であった。これらの計測結果を基に、右利き4症例において手術ナビゲーションシステムに言語マッピングデータを取り込み、腫瘍摘出術を行った。全例でBroca野を温存しながら腫瘍が全摘され、術後にも言語障害は現れなかった。脳機能マッピングデータとMRI画像を統合したmoultimodal navigationの開発により、安全で正確な手術が遂行されることが示された。今後、症例の蓄積と、より精度の高い言語機能マッピング法の開発を予定している。
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